自殺急増の原因は過労死・過労うつ自殺に失業自殺が上乗せされたため。
2009.8.21修正補足
働く者のメンタルヘルス相談室 伊福達彦
自殺が12年連続で3万人を超す勢いです。これほどの自殺増大にもかかわらず、自殺急増の原因が未だに明らかでないのも不思議な事実です。どこに問題があるのだろうか。洪水のように出される自殺統計であるが、実は肝心なことは明らかにされていないのではないか。そうした疑念がふくらんでくる。日本の自殺は1998年(H10年)から3万人を超え続けている。10万人に対する自殺率は前年の19.3から26.0へと一挙に増大した。一挙に増大した原因がわかるなら、少なくとも1997年以前のレベルにまで自殺率は下がるはずである。
1997年の自殺者数24391から1998年の32863人と8472人増加しているが、増加分の62%、5223名を50代と60代でしめる。警察庁が2007年6月に発表した「平成18年中における自殺の概要資料」に依れば2006年中の自殺者の34.6%が60歳以上であり、22.5%が50歳代であった。50代、60代の元中流、現在無職という自殺者がめだつ。平成16年度に報告された近畿大学医学部付属病院の研究に依れば、50歳から69歳自殺企図者において重症が多く、初回企図者が多いと言う特徴が認められた。三次医療施設の救急救命センター3カ所自殺企図者のケースを集積し722例のうち、80例の既遂例を分析すると、未遂例に対して既遂例の特徴は、@男性であることA高齢であることB精神科の既往・通院歴がないことC精神疾患の家族歴がないことD初回の自殺意図であることE事前に周囲に相談していないことF短期間でのストレスは(未遂例に比べて)すくないことG企図時に飲酒していないことHうつ病であることI手段が飛び降り、飛び込み、縊頸であること、J希死観念が強いこと、等であった。(こころの健康科学研究事業 平成16年度総括研究報告書)1997年から98年に精神科での通院医療費は25%増えている。患者の増大は翌2000年から顕著となり平成18年度には100万人近くに達している。97年の2.4倍である。この中で50代、60代は我が身に降ってわいた「うつ」にどう対処していいかわからず、精神科にかかるのを潔しとせず、まっしぐらに死に突入しているように見える。「うつ」や精神科への受診を恥と見る偏見は、高齢世代を死へと導いている。「うつ」は4000の歴史を持つといえども100万人もの患者を持つに至ったからには、現代という時代の病と認識されなくてはならない。
1.勤労者の自殺から考えてみよう。警察庁自殺概要資料に依れば、2006年(H18)度の被雇用者と管理職の自殺数は、合計8790人で、これと60代の自殺者数11120人の合計は19910名である。(50歳代の無職と60歳代の有職者を相殺と仮定すれば)これは全自殺者数の62%となる。60歳代のうつと勤労者のうつ対策の重要性が理解できる。これまでおおむね順調な人生を送ってきたのに、不意に自分の人生に暗い影がさし、何事にも無感動、無関心となるだけでなく、難しい仕事が出来なくなり、仕事への意欲もなくなる。まるで落とし穴に落ちたような、突然の暗黒世界の到来にとまどってしまう。うつに拉致された状態になる。今までに順調な人生との落差はあまりにも大きく、何故そうなったかについて考えも及ばない。日本の場合まず勤労者と60歳代の(もと)中流階級がこのような形でつまずき、自殺の急増となった。今ワーキングプワーを、はじめ、貧困が引き起こすうつの波におそわれつつある。その時うつと自殺は又新たな様相を見せつつある。
被雇用者の自殺率について残念ながら信頼できる統計がない。現職のままの自殺であれば警察庁統計にある。だが退職後はたとえ1ヶ月後であっても、無職として扱れる。労災であれば退職後であっても職務に起因するかどうかさかのぼって調査する。つまり現役時代の出来事により鬱病などを発症し退職後自殺した場合、職場に原因があることが証明できれば労災適用の対象となる。退職後の自殺もたとえば6ヶ月以内であれば、自殺時は無職であっても被雇用者の自殺として取り扱うべきなのではないか。
働く者のメンタルヘルス相談室は鬱病休職者と鬱病自殺・遺族の支援を主な活動領域としている。その相談活動の中での実感は現役の自殺と退職直後の自殺は半々ではなかろうかという思いがある。どの会社のも休職制度があり会社が定めた休職期間中に治癒しなければ、休職期間制限を理由に解雇される。小さな会社では3ヶ月、大きな会社でも1.5年から3年である。病気が治らないからという理由で永年勤めた会社をいとも簡単に解雇されるのが現実である。癌であれ鬱病であれ自分の力の及ばないところで病を得、解雇される。この衝撃は退職後1ヶ月頃から激しくなり、大きな落ち込みを経験する。自殺も急増する。派遣労働者の場合でも派遣切りになり、数か月後、万策尽きて自殺にいたるケースが急増している。すくなくても6ヶ月はさかのぼって属している会社を割り出し、記録する作業が必要ではないか。そうでなければ、原因を作った企業は、会社を辞めてからのことはしりませんと逃げをうつ事ができる。統計上は無職者の死となる。
2.警察庁自殺概要の無職の扱いの問題点。
警察庁の自殺統計は最近では毎月報告が出されるようになり大変身近なものになっている。職業別、年齢別、地域別、自殺原因別など内容も豊富である。ところが自殺者の過半数を占める無職者の統計がずさんなのである。平成20年度で見れば総数32249人に対し無職は18279人、57%である。内訳は学生生徒972人、主婦2349人、失業者1890人、利子配当家賃等生活者68人、年金雇用保険等生活者5249人、浮浪者79人、その他無職者8644人である。5割近くがその他無職と分類されている。年金と雇用保険受給者が一緒くたになっている。雇用保険は職を求めているが、直ちには職のない事が受給の条件である。つまり失業者のことを指す。今の60歳以上の人は年金資格が有れば年金を(満額ではないが)受給できる。その他無職8644人がすべて無年金であるか、またはすべて60歳以下と言うことになる。60歳以上の自殺者は11793人であるので、此は不自然な統計となる。つまりその他無職の中にも年金受給者や失業者があり、年金雇用保険生活者の中にも失業者がいる事になる。
学生生徒、主婦、浮浪者、利子配当家賃等生活者の合計は3468人である。無職合計18279人から此を引くと14811人でこの中に失業者と年金受給生活者が入ることになる。どんな大企業の社員であっても会社を辞め、新たな職に就くまでは失業者である。私たちの日常相談活動では、退職直後の自殺が多いのである。
企業は鬱病休職中の社員をいとも簡単に解雇している。解雇された社員は退職後の数か月自殺の危険に直面すると言っても過言ではない。統計では被雇用者の自殺は8997人であるが、退職6ヶ月以内のものを(職場が原因で自殺にいたったとすれば)此に加算しなければならない。表に出た数字だけでも被雇用者8997人+失業者1890人=10887人となる。雇用保険受給者とその他無職8644人を考慮すればこの数字は15000人から17000人、つまり自殺者の半数に達すると見ることができる。働いている者(首になった者を含む)の大量自殺こそ日本の自殺の特徴なのである。
(注:警察庁の統計は、統計処理の基本をふまえた調査ではなく、現場警察官の業務報告を統計処理しているので、矛盾が出てくるのは避けられないのかもしれない。)
3.企業発表資料から被雇用者の自殺率を考える。
@日本通運の場合
日本通運は「KENPOだより」で毎年自殺者数を公表している。それによれば過去7年間で95名自殺している。06.3月期の従業員数は単独で38323人、連結で65562人である。此をベースにすると日本通運の自殺率は単独とすれば35.4連結とすれば20.7となる。退職者は含まれていない。
A国家公務員の自殺
人事院の資料では年次別国家公務員の自殺は次の通りである。( )内は自殺率
1999年 138名(17.1))
2000年 129名(16.1)
2001年 129名(16.1)
2002年 134名(16.9)
2003年 134名(17.1)
民間企業のように野蛮なリストラの遭遇しない分、公務員の自殺率は低い。16から17で推移している。ここでも退職者が算入されていない。京大の研究では国家公務員の自殺率と国民全体の自殺率は1998年以降急拡大し、自殺急増の要因が民間に有ることを示している。(H18年7月内閣府経済社会総合研究所の委託で京大が作成)
B自衛隊の自殺
2004年 94人
2005年 93名
2006年 93名 自殺率38.1
2007年 83人 自殺率34.4
自衛隊ではいじめパワハラの自殺報道に接することが多い。自衛隊が特別に自殺率が高いように見える。ところが自衛隊の自殺対策は三ヶ月に一回心理テストを実施するなど「一般企業に比べても、三歩先を行っている」と下園壮太二佐は言う。たぶんその通りだろう。では何故自殺率が高く出るのか。実は自衛隊では一般企業と反対に簡単に辞めさせてくれないのである。勝手に辞めると脱走兵になってしまう。退職者の公式統計はすべて定年退職か任期明け退職で、中途退職がない。つまり自衛隊の統計はもし企業が今のように簡単に解雇しなければこういう数字が出ることを示している。
一般企業でも解雇がなければ35程度の自殺率が出ることを示唆しているのではないか。
4.ライフリンクの自殺実態白書の問題点
「 自殺実態1000人調査 」と銘打った調査結果について、一番大きな疑問はサンプルが無作為抽出されていないことであろう。統計調査の調査対象者の選出方法が恣意的なのである。コネのあるところに打診し305人から回答を得たというだけでは統計調査としての意味は無い。
たとえば故人の年齢は警察庁統計では20代、30代の合計は4049人で12.6%であるが、ライフリンク調査対象は72人22.6%をしめる。60代以上では警察庁36.6%にたいしライフリンク10.8%とある。自殺者数が最大の年代は警察庁50代に対しライフリンク40代。自営業は警察庁9.94%、ライフリンク17%。公務員もライフリンク5.6%で現実の3倍近くを占めている。サンプリングが適切でないことになる。
この調査にはもう一つの重大な問題がある、遺族への聴き取りだけでは自殺原因の解明はできないという現実を無視している。遺族と一口に言ってもその属性は多様である。親であったり、子であったり、妻・夫であったり、兄弟姉妹であったり、同居していたり、別居であったりする。90人の被災者の子からの聴き取りにしても、事故のあったとき6歳の子も13歳の子もいる。あしなが育英会の関係者であれば全員未成年ということになる。聞き取った遺族の属性もバラバラになる。実は遺族は被災者の会社や学校での出来事をほとんど知らないないのである。被災者もまた話さないが現実である。労災申請をやろうとすれば被災者が何時間会社にいたかの証明さえ、大変な作業であることが分かる。原因究明には被災者一人に複数の遺族や会社同僚、上司、友達 等時間をかけた聴き取りと書類集めが必要である。わずか2.5時間で自殺原因が究明されると言うことはあり得ない。大半の遺族は自殺原因さえ分からず悶々としているのに、調査に応じた遺族だけは明確に答えたことになる。あり得ないことである。恣意的な解釈がはいっているとしか考えられない。此では原因さえ分からない遺族はだめ遺族のようではないか。恣意的に選ばれたサンプル、恣意的な解釈にもとずく原因特定。科学の手法ではない。
参考としての価値はある。統計としての価値はないといわざるを得ない。
このような資料が幅をきかしているようでは日本の自殺の真相は闇の中に消える。
正社員一万人の自殺の実態が消えてしまうことになる。
5.労働者の誇りを奪う大リストラは自殺を急増させた。
1999年3月23日ブリジストン社長室で、勤続40年の、もと管理職 野中将玄三さんが、当時の海崎社長に「私も腹を切るから、社長も切れ」と迫り、自ら割腹して果てた事件があった。
ブリジストンでは海崎社長の下で94年から過酷なリストラが強行されていた。5年間で3462人もの首を切った。そのため93年に1万6059人だった社員が98年には1万2597人となった。野中さんも役職定年、小会社移籍、賃金半減に加え前年の秋頃から数回にわたり退職勧告を受けていた。
海崎社長は、91年から93年まで米国ブリジストン・ファイアーストーン社のCEO、94年からブリジストンの社長になっていた。
(大リストラ企業は大事故を起こす。JR西日本や日航、ブリジストン・ファイヤーストン、ブリジストン黒磯工場の大火災をみよ)
野中さんは宣言する。「私はすくなくとも、ボロ切れを屑籠に捨てるがごとき、従業員の扱い方に、子羊のごとく従順でなきことを示す覚悟を決めた。誰かが鈴をつけるべきであり、一刻も早く、ブリジストンに明るさを強力に復活させるべきだ。最前の方法は、全従業員の大多数が期待し、幸になる、海崎社長道連れの憤死だ。次策は、従業員の基本的人権である働く権利、生きる権利を尊重した海崎社長の方策転換を約する諫言死だ。」日本の大リストラ史の中で、これだけの気概と決意を実行した人はいない。
「日本的経営の本質は、会社が経営的機能を超えて、共同生活体としての機能を持っていることにある。」「能力を提供して給料を受け取る場所であるだけでなく、人間が全人格に関する場所となっていたのである。」(島田 恒「NPOという生き方」)野中さんの40年間の会社生活の内35年間は共同体としての会社であった。そこから社長と野中さんという、社内のみで解決されるべきこととして、企業一家の内紛として意識され、そこから出ることは出来なかった。
成果主義なる妖怪に日本企業の70%が支配されているという。それぞれの会社の旧来の人事制度が持つ良い面をいとも易々と投げ捨て、目的が不明瞭で、実施の方法や評価の基準が定まらないまま、成果主義が短期に次々と導入されていった。企業共同体意識を経営者自ら打ち壊した。また1985年に労働者派遣法が制定され、その後なし崩し的な派遣制度の緩和が繰り返され、いまでは非正規労働者数は1760万にもなる。社会の安定性は雇用面で破壊されつつあります。全国の命の電話への相談が年間70万件、勤労者心の電話相談には12000件の相談があります。心の病により1ヶ月以上の休職者を持つ企業は65%に達するという。ビジネスマン7500人を対象にしたある調査では、一般社員の40%が鬱状態の経験ありと答えています。自殺者は、年間30000人を超しています。もはや労働者は、会社との距離を一定に保つことが出来ないならば、自己の生存を保ちことさえ困難な事態に追い込まれています。
平成20年の日本の自殺率は25.9である。これを正社員3399万人非正規労働者1760万に掛ればおおざっぱな自殺者の数が出る。正社員8803人、非正規労働者4558人、併せて13361となる。此に警察庁統計の失業者1890人を加えると15251となる。
自衛隊モデル(35)で計算すると正社員11896人、非正規労働者6160、合計18056人となる。やはり警察庁統計失業者1890人を加える。19946人となる。
二つのモデルからの計算では、被雇用者+失業者の合計は13000人から20000弱となる。この間に真実が有りそうである。
警察庁自殺概要の無職の分析と二つのモデルからの推計は、被雇用者および失業者の合計は間を取って16500人とする。正社員数と非正規労働者数で案分すると、退職直後の自殺を含め正社員の自殺10000人強、非正規労働者の自殺5000人弱と推定される。日本の自殺が欧米の2倍、3倍である秘密は過酷な職場環境にあるといわざるを得ない。
総務省が09年8月18日発表した労働力調査(詳細集計)によると、この1年間で正規労働者は29万人減り3420万人となった。非正規労働者は47万人減の1685万人となった。1年間で76万人分の雇用が消滅している。失業者は77万に増え完全失業者は、347万人である。この数字を見ると失業者の自殺率が異常に高いといえる。雇用労働者の自殺が9000人前後であれば、被雇用者と退職直後の自殺者の計が16500人と推定されつ事から、失業者は7500人前後自殺していることになる。自殺率は277にもなる。内閣府経済社会総合研究所が京大の調査研究を委託しH18年7月に公表された「研究会報告書等bP8」は結論として「98年以降の30歳代後半から60歳代前半の男性自殺率の急増にもっとも影響力があった要因は、失業あるいは失業率の増加に代表される雇用・経済環境の悪化である可能性が高い」と述べている。妥当な結論である。 日本の場合20年以上前から過労死が大きな社会問題になっていた。過労死や過労うつ自殺の環境はそのまま、大リストラが敢行された。過労死に失業関連の自殺が上乗せされた。自殺の急増である。
6.自殺対策のあり方
ではこのような結論が実際の自殺対策のあり方とどう関係するかを見てみよう。
秋田県で自殺対策の地道な取り組みをしている秋田大学医学部 教授 本橋 豊さんによれば「自殺対策というのは地域モデル、コミュニティモデルというのと、うつ病に特化したような医学モデルという2つのモデル」があるという。正社員自殺1万人という立場からは、もう1つ、職域モデルとも言うべき働く場でのモデルが必要になる。都市ではこのモデルが第一の比重があると考えるのである。
職域モデルで「一般企業に比べても、三歩先を行っている」のは自衛隊である。
「たとえば,3ヶ月に一回、心理テストを隊員たちに行います。そこでうつ傾向が発見されたならば、上司は心理幹部やカウンセラーなどの面接を受けるよう指導します。そこで治療が必要となれば、自衛隊は各地区に自前の病院を持っているのが強みですから、精神科治療、あるいは入院や自宅待機の措置が迅速に取られます」(上野玲著「行動するうつへ」日本評論社132ページ下園壮太二佐の説明)
富士通では年1回の定期健康診断と人間ドッグでメンタルヘルスチェックを行い、不調が認められる社員に対しては保健師や産業医の精神科医が面接する体制になっている。確かにこのように全員にローラーをかけ不調者を早期に見つけ対処するのは効果的である。根本的には職場職域でのいじめやパワハラ、過重な労働の規制が必要である。規制の必要性を認識させるためにも早期発見保護が先行する必要がある。また退職後少なくとも6ヶ月は追跡保護ができるようにならなければ、不調者を追い出せば事足りる風潮を変えることはできない。あまりにも長く職域での対策が放置されたため、今や原発が職場でも転移が激しく、若者、高齢者を巻き込んでどこに主因があるか分からない状況となっている。
7.自殺対策の有効な手段
失業を主因とする自殺が急増したのであれば、過剰な労働の規制と社会的なセイフティネットの構築は自殺防止の要ともなる。此は全国的な課題である。
地域モデルであれ、職域モデルであれ自殺対策の最も有効な手段は、全員調査を定期的に繰り返しメンタル不調者を早期に発見し対処する事といえる。そのためには都道府県と連携して市町村単位でモデル作りが必要となる。職域モデルは企業の抵抗があり進めにくいなら、工場や職場を丸ごと地域の一つと見なし地域調査の一環として職場を巻き込む方法もある。地域と職域それぞれのモデルができれば、全国的な交流も意義が増してくる。典型的な実例は何にもまして貴重な経験となる。
一般の啓発行動はどうだろうか。先に引用した秋田大学の本橋教授は鬱病や自殺に対する知識や意識が高まる啓発も有効だと述べている。たとえば自殺は「恥ずかしいことだ」という意識に対し啓発することの重要性にふれている。(東京大学ジェロントジーセミナーH20.5.23)鬱病や自殺の現実を知らせることは、重要な課題の一つである。
こうした活動において当事者である自死遺族の語り部としての役割は大きい。現実の悲惨さ、悲しみ、辛さを伝えることはどのような力を生み出すのだろうか。働く者のメンタルヘルス相談室が最初の展示会を開催したのは2007年4月1日であった。2005年8月に200ページもの遺稿を残して自死した片山飛佑馬さんの人生を伝え、悲しみを見つめようと呼びかけた。見学者から思いもよらない反応があった。「胸が詰まり涙がでて、どうにもなりませんでした。いろいろなおもいをいだかれ辛い思いをされていることを伝えてくださってありがとうございました。」「このような現実を知ることはとても大切だとおもいます」現実を伝える、悲しみや辛さを伝える。伝えることで、社会が受け止める力を引き出し育てることができたのである。
自殺対策の最重要課題が、自死遺族のケアのグループを支援する事にあるのは、2次被害を防ぐだけでなく、社会が自殺を受け止める力を育てる事になるからでもある。