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            「うつ」早期発見と復職サポート
                              平成19年11月28日
                        医療法人光愛金光愛病院 有本進
I.正常の悲しみとうつ病の悲しみの相違点
 
正常の悲しみ
 
 悲しい出来事の直後から起こる。
 
 数週間以上に及ぶことは少ない。
 
 回復の過程で悲しみの体験を心理的に受け入れることができる。
 
 悲しみの体験が誰にもわかるし、理解できる。
 
うつ病の悲しみ
 
 悲しみの原因となる出来事が起こった後、
 少し遅れて悲しみが始まる。
 
 数週間から一年以上続く。
 
 悲しい出来事を受け入れることができない。
 
 悲しみの体験は主観的、自覚的であり 周囲がわかりにくい。
 
U.うつ病にかかりやすい性格
一般にうつ病にかかりやすいとされているのはまじめ人間が多いとされています。性格的には社交的、
親切、優しい、善良な人です。生活態度は勤勉で仕事熱心、責任感や義務感が強い、周囲から信頼を得ている人です。これは周りの期待に応えようとか、断りきれないとかで、自分以上のことが要求されてもそれを何とかしてこなそうとするが、結局はできない。それで、自分を責める。今度こそはと,頑張るが、失敗すると、気分が落ち込みます。すると自分が駄目なんじゃないかと思ってくる。そうやって悪循環に陥りやすい性格とも言えます。
U.うつ病の症状
 
(1)抑うつ気分  一日中気分がふさぎ込んでいる。
 
(2)興味や喜びの喪失  これまで好きだったことに興味がもてなくなる。
 
 く3)食欲の減退または増加  食欲のない状態が続いたり、食べ過ぎる時期が続いたりする。
(4)睡眠障害  眠れなくなったり寝過ぎてしまったりする。
 
(5)精神運動の障害 他人の目にもわかるほど落ち着かなくなったり、動きが遅くなったりする。
 
(6)疲れやすさ・気力の減退 倦怠感やエネルギーの欠乏感をほとんど毎日感じている。
 
(7)強い罪責惑  自分をやたら非難するようになり、自分には価値がないと考える。
 
(8)思考力や集中力の低下  決断ができないし、集中することもできない。
 
(9)死への思い  死についてよく考える。
 
(10)身体症状  頭痛・肩こりや胃腸症状・動悸など様々。
 
W.出現頻度
一般人ロにおいての出現頻度は0.36〜0.4%ですが、老人のほうが有病率は高いです。また、アメリカでは成人の4%にうつ病者がいると推測されており、少なくとも、20%の人に一生のうち何時か臨床的に明らかなうつ病のエピソードがあるとされています。初発年齢は20歳代と40−50歳代にふたつのピークがあります。
 
X.年齢によるうつ病の特徴
うつ病は思春期から老年期まで様々な世代で発症します。そして、世代世代で特徴的な症状があります。
● 学童期 登校拒否、頭痛。攻撃的行動、非行
● 思春期 仮面うつ病、ノイローゼ
● 青年期 五月病、怠学、薬物乱用、登校拒否、典型的なうつ病
● 青年期 典型的なうつ病
● 初老期 焦燥感、不安感、自責感、自殺念慮、病前性格に執着性格が多い
● 老年期 不安、焦燥が強い、反応性、心気症状が強い。仮面うつ病
 
 
引っ越しうつ病、昇進うつ病
これはその名の通りです。引っ越しなどで周りの環境が急に変わったり、昇進などで周りからの期得が大きくなったりすることで起こります。要するに周辺環境の急激な変化に身体と心がついてい
かなくなって、はやくそれに合わせようと焦ることからうつの悪循環に陥るのです。五月病なども一
種のうつ状態と言えます。
Z.医療的メッセージ
 
(1)   自殺は絶対にしないでください 自殺は一番いけないこと、必ず治る病気です。
(2)必ず治るので焦らないでください うつ病は必ず治る病気です。今の段階ではトンネルに入っ
てしまったような状態ですが、必ず出口は見えてきます。焦らないでr3つ進んで、2歩下がる」「朝
の来ない夜はない」の落ち着いた心構えが必要です。
(3)風邪ひいたと患ってください 心が風邪を引いたようなものだから、自分が怠けているとか、
 気がたるんでると思わないでください。
(4)自分で治そうとしないでください 専門的治療を受ければ、より早く、より軽くすむものです。
(5)安心して薬を飲んでください 薬の副作用として、口渇、便秘、眠気などがみられますが心 配しないでいいです。
(6)休息、睡眠をとってください できる限り休んでください。診断書を提出し、薬を服用し、自  宅で一番楽な姿勢をとって休んでるのがいいです。
(7)仕事は最低限のことしかしない どうしても自分がやらないといけない最低限のことだけをし、
  なるべく他人に任せること。これまで一生懸命働いてきたのだから今はゆっくり休み、そして元  気になったら、また頑張る心づもりでいいのです。
(8)重大な決定しないでください 人生上の重大な決定はしないこと。退職、引っ越しなどの重  要問題の決定についてはすべて延期します。元気のないときに決めると、悲観的な悪い方向に  決めやすく、あとで後悔します。
(9)病状は一進一退です 病状は一進一退です、一喜一憂しないでください。
 
Z.うつ病の人の認知の歪み(自動思考)
 
く1)恣意的推論 証拠が少ないのにあることを信じ込み、物事を思いつきで独断的に推測し判断する
状態です。例えば、しばらく友人から連絡がないだけで、その人に嫌われてしまったと考えるような場合がこれにあたります。
(2)ニ分割的思考 曖昧な状態に耐えられず、物事を、いつも白黒をはっきりさせておかないと気がすまない状態です。
 
(3)選択的抽出 自分が関心のある事柄にだけ目を向けて結論を急ぐ状態です。人から嫌われてい
るのではないかと思うと相手の厳しい態度にばかり目が向きます。健康状態が気になると身体のちょっとした不調にばかり目がいくようになります。
(4)拡大視・縮小視 自分の関心のあることは大きくとらえ、反対に自分の考えや予測にあわない部分はことさらに小さく見る傾向のことです。気持ちが滅入ってくると、うまくいかないことばかり目につくようになって、うまくいったことはすぐ忘れてしまったりするのが、これにあたります。
 
(5)極端な一般化 これはごくわずかな事実を取り上げて何事も同様に決めつけてしまう状態です。
一度失敗しただけで、「何をやってもだめだ」と結論づけてしまうことなどが、その例です。
 
 
(6)自己関係づけ 自分の責任を大きく感じすぎて、少しのミスで自分を責めてしまうような態度です。
例えば、みんなで取り組んでいたプロジェクトが行き詰まったときに、「自分がいけないんだ」「私の責任だ」と考えて自分ばかりを寅めるようになります。
 
(7)情緒的な理由づけ そのときの自分の感情状態から現実を判断するような状態です。例えば、与えられた仕事の内容がまだよくわからない段階で不安を感じると、「始めてでよくわからない難しい仕事だから不安になっているんだ」と考えられず、「こんなに不安になっているんだから今度の仕事は難しいに違いない」と思いこむようになります。
[.社会的サポート(復職サポート)
 
(1)環境を整える  うつ病のきっかけになったり、うつ病を長引かせているようなストレス要因を取り除き、うつ病の人を手助けするような人間環境を作る取り組みを行う。
 
(2)身構えすぎない  精神的な問題ということで、つい身構えてしまったり、神経質になりすぎると、お互いの関係がぎくしゃくしてしまいます。一番大切なのは、うつ病の人の気持ちに気を配りながらよく話しを聞いて、その人のペースに合わせて次の対応を考えていくようにすることです。
(3)できることを話し合う  たとえば、主婦の方がうつ病にかかった場合、家事がはかどらないのに食事を作ろうとしたり、食器が汚れたまま残っていたりすると、まわりの家族はどうしても気になってしまいます。そのときには、そのような状態を責めないことはもちろんですが、ただ、「病気なのだから仕方ない」と慰めるだけでなく、外食をすることや家族が手分けして食事の後かたづけをするなどの解決策を検討することが大事です。
 
(4)原因を追求しすぎない  うつ病になった原因がはっきりしている場合にはそれを解決していくことが役に立ちますが、原因探しは悪者探しになることが多いので注意が必要です。思うように仕事が進まないで悩んでいるうつ病の人に「どうして仕事が進まないんだ」と声をかけると、うつ病の人は、責められているような気持ちを持ちます。
 
(5)職場異動  職場異動で職場でのストレスが解消されたからといって、すぐに気持ちが楽になると期待しすぎないようにしてください。精神的な問題の回復には、むしろ時間がかかるのが普通です。
 
(6)職場でのプライバシーの尊重  うつ病の人には、職場での配慮が必要です。しかし、一人だけ手を抜いているような印象を与えてしまうと、職場での人間関係がぎくしゃくしてくる可能性があります。
大事なのは、どのような内容のことをどのような形で、どのような人にまで伝えるかをよく相談して決めることです。
 
(7)職場のメンタルヘルス  精神的な悩みを抱えたときに、あまり隠さずに相談できるような雰囲気作りが大事です。
 
(8)自殺を防ぐ  うつ病の人のロから、実際に「死」とか「自殺」という青葉が出たときには、すぐに話し合う必要があり、専門家に相談する必要があります。その時にはまず、何が問題なのかを具体的に聞いて、その間題を解決できるように手助けすることが重要です。とにかく辛抱強く繰り返し話し合うことが大切です。