日本の自殺の現状と我がNPOの行動目標
日本の自殺率はヨーロッパやアメリカの2倍以上である。元々自殺が多いのに、ここ11年間は自殺数が3万人を超えている。
他国の2倍の自殺にさらに自殺者が増えたのであるから、日本特有に事情が働いていると推察できる。ところが自殺急増の原因は、11年後の今もはっきりしないのである。


自殺対策が法定化され内閣府と自治体が担当することになっている。
 多くの自治体にとって、何をしていいのかわからないというのが実情である。原因が定かでないので、対策も立てようがないというところだ。
自殺急増の原因が曖昧なまま自殺対策を迫られても、担当者は困ってしまう。名前だけの担当者が多いことも頷ける。
そこで自治体の多くが、自殺対策よりも自死遺族サポートに力を入れている。目に見える支援をしようとするならば、自死遺族サポートしか無いという状況である。この分野は実は当事者にまかせ、自治体はバックで支えるのが最適な分野だ。むやみに第3者が介入する事は控えなければならない。自死遺族との間で主導権争いを起こしてはいけない。実情は危ういところで推移している。

ある人は自殺率が失業率の酷似しているという。だが単ににているだけなのか、それとも深い相関関係にあるのかは証明できない。日本以外では失業率と自殺率に相関がありそうな国はない。無関係ではないが、きれいな相関関係ではない。
ある人は4つ以上の多数の複合原因だという。確かに1つの大きな原因が、次々と負の連鎖を呼び複合的な様相を呈していることは事実である。多数原因説は多数の要因に分散させることにより、自殺急増の原因を拡散させる危険がある。何から始めるべきかが見えてこない。
何故原因がわからないのであろうか。
実は自殺の実態がまだ解明されていないからではないだろうか。警察庁の自殺概要は都道府県別に整理された統計を30年分掲示している。また昨年この原票が警察署別に公表された。地域的な統計は細かに見ることができるようになった。しかし日本は縦割社会である。企業が大きな力を持った社会である。大企業が君臨しその周りを多くの中小企業が取り巻く社会である。職場のあり方が、家庭のあり方に直結し、それが地域社会や学校まで波及している構造がある。その頂点にある大企業の自殺の実態が隠されたままなのだ。企業の公表を促しても拒否されているのが実情だ。ここの真実が明らかになれば日本の自殺対策は飛躍的に進む材料を得る。日本通運の資料では過去7年間の自殺数は95名である。年平均13.57人が自殺していることになる。此を連結決算ベースの従業員数で自殺率は20.7人となる。500人以上の企業の従業員数を約1000万人とすれば、2000人以上の自殺者が毎年、大企業ででていることになる。比較的恵まれていると見られる大企業でこれだけの自殺者がでるなら、その下の中小企業ではもっと過酷な状況が推定できる。1998年以後被雇用者と無職の自殺が急増している。年代的にも働き盛りの無職が多い。むろん最初からずっと無職であった訳ではない。無職になったのだ。この10年職場で大きな変化があったのだ。

昨年来の経済危機は自殺問題が雇用の不安定と結びついていることをあぶり出しつつある。
そこで働く者のメンタルヘルス相談室では2009年度の目標を次の3点とすることにした。
1.企業の責任:企業の自殺者数を公表し対策を公にすること
2.行政の責任:自殺手段の5割を超す縊死。その未遂者は高度脳機能障害となり、フランク永井さんのように、社会生活に戻れないまま療養して  いる。こうした被災者に労災が認定されるよう特別な措置をすること。
3.市民の責任:うつ病になれば、妻から離婚を要求されるケースが目立つ。うつ病が治るまで離婚の請求は差し控える。離別者の自殺率は7倍   以上高まる。

2009年4月2日毎日新聞夕刊に掲載されました。